第29章 夜空に咲く、花
「唇はだぁめだって」
「どうして?」
「……どうしてだろうねぇ」
「昼間一緒にいたの…恋人?」
「あぁ、違うわ。」
「忘れられない恋人がいるの?」
「そう言うわけでも無いんだけどなぁ」
そうあやふやに答えながら取られたたばこを取り返し、口に咥えた。
「どうしてもダメなの?」
「うん、ごめんね?」
ふっと笑いながらも悟浄は涙を浮かべながら部屋を後にする女性を見送るでも無く、外を見上げていた。
「あぁあ……だっせぇなぁ……フラれてんのに…まだ雅のこと…考えちまう……」
ふぅぅっとたばこをふかし上げると、たった一度したキスを思い出していた。
花火を見に行くべく支度を始める。雅はどうしようと考えながらも、着替える服が無い為、髪だけでもと編み出した。
「……何か…雅って器用だよな…」
「そうかな…うまくできてるか自信無いけどね…」
「かわいい!」
「……へへ、ありがとう、悟空!」
「本当ですねぇ」
そんなことを話していた時、宿主の奥さんがやってきた。
「あ、よかった。まだ出掛けてなかったみたいだね」
「あの……」
「これ、よかったら着てみるかい?」
そういって差し出してくれたのは浴衣だった。
「この花火目当てでも無く、ただこの街に着いたって言うなら何かの縁だよ。それに旅の途中だって言うなら いい思い出になるんじゃないかい?」
「あの…これ……」
「私が若い頃に着ていたものだからね…少しくたびれてはいるがまだまだ着れるさ。よければだが」
「ありがとうございます、お借りしてもいいんですか?」
「あぁ、他の宿泊者に女性ってあまり目だった子はいなかったからね」
「あ……でも…」
そう呟いて雅は頭を下げた。
「ごめんなさい…」
「どうしたんだい?」
「私、今まで着た事無くて……着方が…」
「それなら私が着せてやるさ」
快く申し出てくれた奥さんの心遣いに雅は甘えることにした。
「さて、そうとなれば男共は出ていった!ほれ!」
「そうですね、悟空?先に三蔵のとこに行きましょう?」
「そうだな!じゃぁ雅!後でな!」
「うん」
そう話して一旦雅一人残り、別れていった。奥さんと二人きりになり、浴衣を着付けてもらう。手際よく着せていく奥さん。