第29章 夜空に咲く、花
宿に戻り入る直前に二人はどちらかともなく手を離した。取り合えず三人の使っていた部屋へと向かっていく。
「ただいまぁ!…って…誰も帰ってない?」
「みたいだな」
「……三蔵?」
「なんだ」
「……今日はありがとうね?お散歩付き合ってくれて」
「…それで?」
「え?」
「そんな事じゃねぇだろ、言いたいのは」
「…?これだよ?」
「…なら俺の思い過ごしか…?」
そう呟いた三蔵。しかし雅は本当は違うことを言いたかったのを三蔵に見透かされた様でごまかしてしまった。
「三蔵」
「…なんだ」
そのまま答える事無く背中からきゅっと巻き付いた雅。
「三蔵疲れてるだろうから…十秒でいい…」
「フン…それなら…こっちのがいいだろうが…」
そう言うとくるりと体の向きを変えて三蔵はそっと雅を抱き締めた。
「…三蔵の心臓の音…落ち着く…」
「…そうか」
「……ありがと」
そういって離れようとする雅。しかし三蔵が離してくれなかった。
「三蔵?」
「今のはお前の分の十秒だろうが…ならあとは俺の分の十秒貰ってもいいだろうが」
「……三蔵…」
そう言いながらきゅっと抱き締めた腕は離れなかった。ぽんっと頭を撫でるとそっと体を離す三蔵。