第26章 眠れぬ夜
「……なんだ、」
「え…っと……なんでも」
「なんでもないのに見るか?そんなに」
「……だって…今夜はもう会えないかなって思ってたから…」
「たった一晩だろうが」
「…そうなんだけど…それに悟空と一緒の部屋がいやだって訳じゃないし…悟空と久しぶりに二人きりで話せたし……」
そういうと俯いてしまった雅。
「そういえば、悟空にね?聞かれたんだ」
「何をだ…」
「三蔵の事、本当に好きなんだなって」
「……それがなんだ」
「ん、好きだなって…悟空が何であんな事聞いたのかってことも少し解ったし…話してる内に、悟空の事も羨ましくなった。三蔵の事一番よく解ってるから。それ言ったら悟空にね、これからたくさん知ること出きるから!って…」
「……フン…」
「もっと三蔵の事知りたいって思って…そうしたらなんか会いたくなって、外に来ちゃった」
「どういう関係があるんだ」
「お月様が…すごくきれいだったから」
そういうとまた雅は見上げた。
「ごめんね?なんかずっと話してて…」
「いや、構わん」
「…ありがと」
そう答える雅と、灰を落とす三蔵。ふぅっと煙を吐き出すと、三蔵は月を見上げながらそっと口を開いた。
「俺には師が居る。光明三蔵といってな。とても穏やかな人だった。」
「…三蔵?」
「江流こうりゅう…これが俺の幼名だ。赤ん坊の時、楊子江に捨てられていたのを見つけてくれた師匠がずっと育ててくれていた。この名前も師匠が付けてくれたらしい。それから、十三の時に聖天経文と摩天経文を受け継いだ。だけど、聖天経文は俺の目の前で師匠が殺された時に妖怪に奪われた。その時に、師匠が死に際にくれたのが、この玄奘三蔵と言う名だ。その時に初めて俺は自分自身の弱さを知ったんだ…」
そう話してくれているのは紛れも無く三蔵の過去だった。
「三蔵……」
「黙って聞け」
そういうと思い出すかの様に一つずつ言葉を紡いでいく。
「長安に慶雲院があってな。そこの大僧正に色々と教えてもらった。それから旅に出てどれくらいか…すげぇうるせえ声がしたんだ。その声の主が、五行山で幽閉されている悟空だよ。それまでは俺もずっと一人だったからな。それからは悟空が一緒だった。それから奪われた聖天経文を探しても見つからねぇからってしびれきらした三仏神が行方を探す代わりにって、悟浄と八戒まで寄越して来た。雑務こなせってな。」
