第23章 揺れる心
紅孩児はそれに気付いた。
「これ…」
「……一人は…いや…」
そういって紅孩児にきゅっと巻き付いた。
「おい…」
「……ッッ」
その様子を遠くから見ていたのは你だった。
「こうも簡単に飲んでくれるとはねぇ…。経文なんてどうでもいいんだよ。ごめんね?皇子サマ。ボクにとってみたらね。壊れてくれるのをみれたらいいかなぁ」
クスクスと笑っている。そう。あの雅に飲ませたのは你が仕込んだものだ。全てを無にしてしまうのは惜しい。どうせなら壊れていく様を見れたなら少しは酒の肴になるだろうと考え、甘酸っぱいドリンクに少し薬を混ぜた。それは人の心を惑わせ、あったものを無かったように、そしてそのときに身近にいる人を慕う…相手が人間であればあるほど、素直であればあるほどかかりやすい術がかけられる。その証として、術にかかっている間は何かしらの変化がある。雅の場合には右耳に現れたピアスの様な黒飯石だった。
その頃の一行は、とっくに宿に戻ってきていた。
「おかしいですね、雅が書き置きも無く、食事にも来ず、姿を消すなんて…」
「おい、三蔵!昨日雅に何したんだよ!!」
「これと言って何もしちゃ居ねえよ」
「だって、朝から雅なんか昨日と様子違ったし!!」
「そうは言っても、それはきっと雅がイイ女になっただけだろうけど『うるせえ』…何よ…全く」
「遊んでる場合ではないと思うのですが…」
昼間の様子の事もあって八戒は少し気になってしかたが無かった。
「あ……」
窓の外には雨が振りだした。
「どうしましょうね…」
「俺、雅探してくる!」
「僕も行きましょうか、悟浄、あなたも」
「あぁ。」
「三蔵はここに居てくださいね」
「ぁん?」
「雅が戻ってきた時に困るでしょう?」
「……チッ…」
そう舌打ちをして、椅子に座っている。三人が三人バラバラに出ていこうとした時だった。最後に出た八戒を宿主が呼び止めた。
「お嬢ちゃんとは会えたのかい?」
「え?」
「あれ、連れとの約束があるからと場所を聞かれたんだけどねえ」
「その場所って…」
「あぁ、街外れの大木なんだけど。でももうこんなに雨も強くなってきてるし。皆さんいるなら大丈夫かね」
「すみません。ありがとうございます、ご主人」
そうお礼を言って八戒は教えてもらった大木の元へと向かっていった。