第22章 過去と、価値
「えっと……これかな」
「……あら、あなた…」
「えっと……あの…ごめんなさい…名前…」
「八百鼡です」
そういい挨拶を返してくれたのは紅孩児付きの薬師だった。
「昨日は李厘様が申し訳ありませんでした。」
「あ……大丈夫です」
「それなら良かった…!」
「八百鼡ちゃん!!」
「李厘様!!」
「あ……君」
「…こんにちわ」
「あの…昨日はごめん……な?」
「え?」
「お兄ちゃんにもすごく怒られて…八百鼡ちゃんと一緒に行動しろって言われて…」
「大変ですね…」
「問題はありません」
そうにこりと笑う八百鼡。李厘はシュンとした様子で雅を見ていた。
「でも…三蔵、君相手なら経文渡すと思ったんだけど…」
「それはないよ。大事なものだし…」
「でも、それじゃぁ手放す君は三蔵にとって大切じゃないみたいに聞こえるぞ?」
「……それは…」
「だって…そうだろ?」
「李厘様?それぞれ大切なものの価値は違うものです」
「でもおいらだったら巻物なんかよりお兄ちゃんや……大事なもののが大事だ!」
そういう李厘の言葉は雅に心にチクリと感じた。大切なものだから失いたくない…それは解るし、三蔵はあれを手放してはならない。それは雅自身もしっかりと解っていた。
「でも、前に言ってたじゃん!誰も俺は信用何ざしちゃいねぇって!!だから、この子ならって…」
「ごめんなさい…ほら、李厘様、行きましょう?」
「待ってよ!八百鼡ちゃん!!」
半ば引きずられるように雅の前から帰っていく二人。買うものを見つけ、重たくなりかけた足をどうにか持ち上げる。
「雅?」
「……」
「雅!」
「あ……八戒…」
「どうしたんですか?あんまり遅いから…」
「あ、ごめん、少し迷っちゃったかも…」
「もう、大丈夫ですか?やはり僕が行けばよかったですね…すみません」
「大丈夫だよ…!心配ない」
そう答えてにこりと微笑んで見せる。うまく笑っていなくては、八戒にばれてしまう。そう感じていた。