第19章 踊り子雅、誕生
そう俯き、答えあぐねいていた時だった。
「退け」
「え?」
「三蔵?」
「いい加減に返して貰うぞ」
そういいながらも雅の後ろから腰に腕を回しぐいっと引き寄せられた。不意打ちの為、雅も驚いていた。
「え……三蔵…?」
「返してっていうのは聞き捨てならないよ?ね、雅ちゃん?」
「あの……」
「旅って危険なんでしょ?やめなよ!一緒に踊って、一緒に楽しくいこうよ!」
そう姫乃も城太郎と一緒に雅を最後の説得に入ってくる。
「三蔵…離して?」
「…ハァ」
小さくため息を吐くと雅の腰から腕を解いた。
「本当にごめんなさい」
「後悔しない?」
「うん。踊ることの楽しさ、教えてくれてありがとう」
「俺が、これから先も何があっても一緒にそばにいるよ。それでも?」
「……ありがとう、そういってくれて。でも私がこれから先も一緒に居たいのは悟空や八戒や悟浄で…それに三蔵とこれからもたくさん色んなもの見たいから…」
「それでも…妖怪がいつ襲ってくるかも解らないのに…死んじゃうかも知れないよ?」
「死なないよ。みんなが…三蔵がいてくれるから…」
そういって雅はペコリと頭を下げてくるりと向きを変えた。
「帰ろ!」
「雅……」
「本当にあなたは……」
「三蔵、…来てくれてありがとう」
「たまたま通りかかっただけだ。」
「クスクス…それでもいい、立ち止まってくれたんでしょ?」
下から見上げ、三蔵にも礼を言っていたその時だ。
「雅ちゃん!」
城太郎が大きめの声で呼び止めた。振り返るとしゅっと何かが放り投げられた。
「それと衣装で今回のお礼!受け取って?」
「え……?」
顔をあげた雅の目には、ニッと笑いVサインを出している城太郎だった。もう一度深く頭を下げて大きく手を振り、雅は一行と一緒に宿へと向かっていったのだった。