第34章 徒花→アザレア✿保科宗四郎✿裏
うたた寝をしていると、少し遠くから、よく知ったリズムが聞こえる。宗四郎が歩いている。でも目を瞑ったまま、身体を起こさなかった。会っても、言葉を交わすことはない。ただ、"お疲れ様です"と言うだけ…。
すぐ近くでそのリズムは途絶える。見下ろされているのには気付いていた。そして、ふわっと香る、宗四郎の匂い。上着を掛けてくれたようだ。もう、優しくしないでよ…。
「君が――他の男に笑顔なんて見せるからあかんねん。やから、こないなことになった」
何を言ってるの?よくわからない宗四郎の言葉が、頭の中で繰り返される。寝たフリを続けたままぐるぐると回る宗四郎の言葉に犯されていく。気付けば、木の幹に手をついた宗四郎の息が、耳にかかった。
「友達なんかではおれへん。抑えられん。……好きや」
肩が跳ね、目を開けてしまう。今、なんて言ったの…?至近距離で目を見開いた宗四郎と、視線が交わる。見つめ合っていると、先に目を閉じた宗四郎が、私の肩に額をつけた。
「……寝たフリはずるいやろ。僕、気持ち悪いな。忘れてくれ。昨日みたいなことも、もうせぇへん。悪かったな」
そんな風に言っておきながら、肩から離れることはなかった。心臓が激しく脈を打つ。震えた手を上げて、宗四郎の背中に回した。身体だけじゃなくて…私と同じ気持ちを持って、触れていたの?
「……私、したことないの。だから…いきなりするのは、怖い…」
少し、息を呑んだような音が、宗四郎の喉から聞こえた。
「……そうやな、いきなりは誰でも怖いわ。すまん…もっかい、チャンスくれへん?」
「これからは――幾らでもあげるよ。私も、宗四郎が好きだから…」
宗四郎以外とはしたくなくて、ずっと守ってきたもの、宗四郎にあげる。