第17章 代替品の恋慕
全てを目撃してしまった〇〇は
ショックでその場を立ち去る。
『……(泣く資格は、流石にない。)』
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「よーい…カーット!」
という声が響き、
先程その場を後にしたセットで
撮影が始まる。
〇〇は法廷の傍聴席から
証言台に立つ夫を見守る。
『……(神妙な面持ちのシーンでよかった。
……笑顔なんて…作れるか分からないから。)』
パッと一瞬レンと目が合ったが、
フイッと逸らされて
ツキツキと胸が痛む。
幸い彼は私に見られたことに
気づいてない。
『……(見なかったことにして、
やり過ごせばいいんだ…
大丈夫。
演技は得意でしょ。)』
と言い聞かせる。
そして、2人が思い切りやり合うシーン。
途中にヴァンが物凄いアドリブを入れ、
レンもそれに答える。
そのやり取りは
裁判に勝つための台詞ではなく、
七海春歌に向けられた
お互いの本心のように聞こえる。
ことごとく打ちのめされる〇〇。
『………』
でも、彼女は諦めることしかできない。
彼女が去る者を追うことはない。
今までも…そしてこれからも…
もう去られることに慣れてしまっているのだ。
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裁判のシーンの撮影が終わり、
ラストの風野と炎が少し分かり合うシーン。
〇〇たち家族は一足先に
上がりになり、
3人で少し休憩しながら談笑していると、
「あ、あの…
□□さん…ですよね?」
と声をかけられる。
振り向くと、七海春歌がいて、
目を丸くして驚く〇〇。
『は、はいっ…( ˊᵕˋ ;)
(なんだろう、なんだろう…なんだろう……)』
心臓がバクバクと鳴りながら、
椅子から立ち上がる。
「あ、お、驚かせてしまって
すいません。
あ、あの…JOKER TRAP拝見して、
それで、その…演技が凄くて…
1度お話してみたかったんです…(>ㅿ<;;)」
と、なんだかファンを
目の前にしているような感覚に
キョトンとしてしまう。
「あっ、き、急にこんなこと言われても
困りますよね。
すいません…(>ㅿ<;;)」
とペコペコと頭を下げられ、
『い、いえいえ( ˊᵕˋ ;)
わ、わたしも…あの素敵な曲を作ったのが
七海さんだって聞いて、
とても気になっていたんです(*^^*)』
と、頭を上げてという仕草をする。