第9章 あの花畑で[△不死川実弥]
「ただの人風情が……そろそろ体力が無くなってきたんじゃないのか?」
「……」
札の効果がもうすぐ切れる。
この鬼は多分それをわかっている。
「今その娘を引き渡せば、今回の件は無しにしてやる」
「……嫌だね」
「絆されやがって」
だけど最後の切り札がある。
札の効果が切れる一瞬を狙って頸を斬れば、こいつは倒せる。
「ほら、そろそろ札が切れるぞ」
「そうだな!!」
「!」
油断をしている鬼の頸を斬った。
この札は太陽の光が入っている札だ。
刀につければ、刀で鬼を倒すことが出来る。
隅で座っているの元へ行き、手を差し伸ばす。
「…………実弥」
「逃げるぞ」
「!実弥……!!」
は俺を横へ突き飛ばした。
見えたのは、頸が無い状態で立っている鬼と、鬼の手が刺さっただった。
「ざまあみろ!」
鬼は笑いながら塵になり、は倒れた。
俺はそれを受け取り、傷口を抑えた。
「なんで……!」
「………なんで……?
そんなの決まってるじゃない…………」
は俺の頬を触り、微笑んだ。
「夫婦なのだから…………愛する人を守るのは当たり前でしょう?」
「守るのは俺の方に決まってんだろうが…!」
「どうして……?あなたは充分私を守ってきたのよ……」
「っ……!せっかく……これから…………!」
「……」
「死ぬな……」
「漸く名前で呼んでくれたわね……
最後だけ素直になってどうするの……?」
いつもと変わらない笑顔でそう言う。
後ろの方で門が開く音が聞こえた。
親父が入ってくる。
「…………実弥」
「…」
「好きよ、実弥……」
「……俺もだ……」
は目を瞑り、俺の頬から手が力なく落ちていった。
「始末しておけ」
聞き慣れた声が聞こえたと同時に、銃声が響き渡った。
俺が撃たれたと分かったのは、の服が更に赤く染っていたから。
の手を繋ぎ、自分の命が終わるのを待った。
もし生まれた世界が違かったら、俺たちはちゃんと愛し合えただろうか。
あの花畑で心から笑い合えただろうか。
もし来世というものがあるのなら、今度こそ……