第8章 ほくろ[✩宇髄天元]
あの女と初めて会ったのは、俺がまだ忍の時だった。
今まで任務に失敗した事はなかった。
なのにあの日の任務は、いつもより手古摺った。
クナイでも毒でも。
何をしてもそいつは死ななかった。
クナイで喉を刺しても、頭を刺しても、
人とは思えないような力を出すそいつに、為す術は無かった。
こんな所で死ぬのか。地味な人生だったな。
そう重い目を瞑った時、雷が落ちる音が聞こえた。
雨なんて降っていない。
なんだと思い目を開けると、先程まで居なかった女が立っていた。
女の足元には、俺が手古摺っていた奴が倒れていた。
その女は刀を持っていた。
刀……?刀なんて廃刀令のこの御時世で持っていていい代物なのか?
そう思っていると、女は俺の方を振り返った。
「…………怪我は?」
「………してねぇよ」
「肩、怪我してるだろ。血が出てる。
稀血じゃないから鬼は寄ってこないが、遭遇したりでもしたら死ぬぞ」
「何言ってんだアンタ……」
「お前が戦ってたのは鬼だ。人ではない」
そう言って、手際よく肩の傷を塗っていく女。
俺とそんなに歳が変わらなさそうな女だった。
その女が、鬼とやらを倒した。
「……何だ?痛いか?」
「…痛くはねぇけど………」
「そうか。念の為これを持っていろ」
そう言って女が渡してきたのは、"藤"と書かれた小さな袋だった。
「鬼はその花の匂いが嫌いだからな。
それを持っていれば近寄ってくることは無いだろう」
「まじで?」
「たぶん」
確証じゃねぇのかよこの女……。
「終わったぞ。帰れ」
「帰れって……アンタ何者?」
「……鬼殺隊だ」
風で羽織が靡き、服の後ろに"滅"と書かれた文字が見えた。
その日から数年後、再開した時、
アンタは俺のことを忘れていた。