第7章 恋をする資格[〇不死川実弥・宇髄天元]
次の日も、その次の日も雨が降った。
雨の日は傷跡が痛む。
元々右利きだったが、刺されてから上手く動かせるまでは左だったので左利きになった。
こういう日は右で物を持たない方がいい。
でもどうしても持つ時は来る。
持てないことは無いから持つ。
ただ右を庇うように持つので、左への負担が多い。
今でも思うことがある。
あれだけ刺されて、よく腕が壊死しなかったなと。
刺したところが良かったのか、医者が手を尽くしたのか。
それともただ運が良かっただけなのか。
リハビリだけでよく済んだなって思う。
あの女は腕を刺した。心臓でも喉でもなく腕を。
取り調べだとこう言ったらしい。
使えなくすればあの人が興味を持つことは無い。
腕を刺し終わったら次は口を裂ける予定だった。
と。
馬鹿みたいだ。
そんな事を考えながら、パソコンで資料を作っていた。
今度の体育祭の件についてだ。
やる種目は去年と変わらない。
生徒も教師も楽しめるような体育祭だ。
私は種目は不参加だけど。運動音痴だし。
「ん」
パソコンの横に珈琲と砂糖とミルクが置かれた。
「ありがとうございます」
「今年の担当アンタだったか」
「はい。去年は不死川先生でしたよね。
これで合ってますか?」
椅子を少し横にずらし、先生にみてもらう。
「…アンタ今年も出ねぇのか?」
「運動音痴なので」
「補習ン時足速かったろォ。リレー参加なァ」
「あっ」
リレーの選手名のところに私の名前を打った。
打ちやがったぞこの先生。
珈琲を飲みながら軽く睨んだ。
「…左利き?」
「あー…まぁはい。雨なんで」
「……悪ィ」
「この位じゃ気にしませんよ」
先生は頭も勘もいいらしいが、察しもいいらしい。
これは学生時代モテてたぞ。
「重いの持つ時言え。持つから」
「慣れてるのでいいですよ別に」
「そこは素直に甘えるんだよ」
そう言って先生は私の頭の上に手を乗せた。
周りの視線が恥ずかしかった。
でも、嫌な気持ちはしなかった