第7章 恋をする資格[〇不死川実弥・宇髄天元]
恋をする資格なんて私には無い。
消えない傷が、治らない傷がずっとあるから。
あの日、母が助けてくれなければ私は死んでいた。
父が私にも手を出していると知った浮気相手は、半狂乱になって私に襲い掛かってきた。
必死に抵抗したけど、子供が大人の力に敵うはずがなかった。意識が飛ぼうとした時に、仕事から帰ってきた母が助けてくれた。
もちろん浮気相手は警察に捕まった。警察は、浮気相手は殺人未遂として逮捕したが、父親は逮捕しなかった。両親は離婚。私が退院した後、母と共に遠くへ引っ越した。
母は謝ってきた。気付かなくてごめんねと。辛かったねと。もう大丈夫だからと。
数年間ずっと昔の夢を見ていた。
ようやく見なくなった時は、私が教師になった頃だった。
初めて宇髄先生を見た時、性格は似ていないが、体格が似ていると思った。宇髄先生は何も悪くない。だけどどうしても父と重なって、怖くて苦手だった。
だから避けていたんだ。
それでも構ってくるもんだから困った。
悩んでいる時に、喫煙所で煙草を吸っていたら不死川先生が来た。
この人も煙草吸うんだって思った。意外だったから。
電子タバコの本体を忘れたらしく、予備で持っていた紙煙草を吸おうとしていたが、ライターが無かったらしい。
だから貸した。本当にそれだけ。
でもそこから先生が喫煙所に来る度に、ライターを貸すようになった。先生は電子タバコから紙になっていた。
私と同じ銘柄の煙草を、私と一緒に吸う。
何気ない時間が好きだ。それは今も変わらない。
弟たちがどうだとか、両親がどうだとか。
飽きない話をしてくれる。
あの件以降、不死川先生はよくメッセージを送ってくる。とは言っても、明日の授業は〜とか、ここまで進んだとかなんだとか。会話をした日は、寝る時は必ずおやすみと来る。スタンプで返すと、スタンプで返ってくる。
もう確実だった。私は先生のことが好きだ。
でも私にはそんな資格なんてない。
男性が望む可愛い女の子ではないから。
だから自分の気持ちにそっと蓋をした。