第6章 霞と微風[☆時透無一郎]
「師範、師範起きてください」
「………あと5分」
「駄目です。それ2回目です」
彼女は無一郎から布団を剥ぎ取り、起き上がらせ部屋から出した。
布団を畳み、朝餉を食べている無一郎の髪を櫛で梳かす。
「また髪の毛乾かさないで寝たでしょう。
綴じかって………ちょっ、動かないでください」
「お母さんみたい」
「誰がお母さんですか」
彼女が継子になった経緯は、彼との合同任務の時に彼女の呼吸を見た無一郎が継子に強制的にしたからである。
継子として住み始めたが、あまりにも無一郎の生活がダラっとしていたので、何かと彼女が身の回りの世話などをしている。
無一郎には記憶が無い。
それは彼女も分かっているので、昔会ったことがあることは言わなかった。もし記憶があったとしても覚えてるか分からない。
「やっと解けた……。
あぁもう口に米粒着いてますよ」
「ねむい」
「そうですね。眠いですね」
無一郎の口の横に着いた米粒を取りながらそう答える。柱としては凄いが、私生活となるとここまでかと彼女は思っていた。
朝餉を食べ終わった無一郎を洗面所に連れていき、顔を水で濡らした手拭いで拭かせ歯を磨かせる。
ここまだすれば、後は無一郎の寝起きの脳内が覚醒するのを待つだけだ。
無一郎を縁側に座らせ、お茶を横に置いた。
その間彼女は洗い物をし、洗濯をしていた。
「、鍛錬するよ」
「はい」
脳が覚醒したのか、無一郎は素振りをしている彼女に話し掛けた。
無一郎の稽古は打ち込み稽古だった。柱である彼に叶うはずなく、いつも彼女は負けていた。指摘する事は無かったが、逆に褒めることも無かった。
師範とはそういうものなのかと思っていたので、彼女自身も特に何も言わなかった。
「どうでもいいけど、君の呼吸不死川さんと同じなんだね」
「まぁ……風ですので」
「なんかムカつく」
「そういうの理不尽って言うんですよ」
不死川と無一郎の育手は、彼女の育手でもあった。なので呼吸は風になった。
「まぁいいや。少し出る」
「はいお気を付けて」
無一郎が去った後彼女は両腕を上に延ばした。