第3章 間諜
本部に戻ってくるなり紬は真っ直ぐ資料室へ向かった。
頭の中で弾き出された答えが正解である確固たる証拠、所謂試し算の心算で、
自分と兄、太宰治が離反した後からの記録を幾つかパラパラと捲る。
「ふむ。間違えなさそうだねぇ」
お目当ての情報が手に入ったのか。
パタン、と音を立ててファイルを閉じると元の場所へと戻して一時間もせずに資料室を後にした。
そして真っ直ぐに向かうはーーー
「……次は何処に行く心算だ?」
「首領のところ。中也も来るかい?」
「……。部屋の前までな」
資料室の外で待っていた中也と一緒に、向こうも戻ってきたばかりであろう首領の部屋へと移動した。
「ところでさ、中也」
「あ?なんだよ」
「このひっつき虫みたい一緒に行動するの何時まで続けるの」
「あーー…………何時までだろうなァ」
「え。期限云われてないわけ?」
「ああ。嫌か?」
「え。」
幹部専用の昇降機に乗り込んで云われた一言に紬がすっとんきょうな声を発した。
「嫌か、って聞いてンだよ」
「え、否、嫌じゃないけど……え?」
「じゃァいいだろ。俺のことは。手前の仕事を邪魔する心算も自分の仕事を投げ出してる訳でもねェンだからよ」
「うん………うん?」
目的の階に到着した音と共に開いたドアへ何の迷いもなく歩きだした中也の後ろ姿を見て
「詰まる所、私が嫌と云うまでってこと?」
小声で呟いた言葉を一言一句聞き逃さなかった中也はくるりと顔だけ振り返りーーー
「そうなるな」
あっさり認めて歩きだしたのだった。