第3章 桃鳥【あなたに全てを】
「いらっしゃいませ!」
「おうドリーム。ちゃんと働いてるか?」
「若様……!!あ、当たり前です!」
いつもの窓際の席に案内すると、いつものオーダー(お酒と今日の軽食)を頼んでくれるお得意様な国王、ドフラミンゴ様。
彼との出会いは、まだ[ドンキホーテファミリー]が[新世界]に進出する時のルーキー海賊団だった頃。
なにぶん『体液がある条件下で宝石に変わる一族』の末裔という経歴がある私。
一族で住んでいた隠れ里が海賊に襲われて滅んだらしく、私は逃亡生活中の両親から産まれた『過去や素性を知らない子』なのだ。
家族三人で静かに穏やかに平和に暮らしていたけど、あの頃『なにも知らない私』は簡単に捕まって[シャボンティ諸島]の[人間オークション]に出品されてしまった。そこで私を買ってくれたのが当時の若様。
(両親もヤバいほどに無防備すぎてたと思うけど………当時ルーキーだった若様が何千万もベリーを持っていたのがすごすぎる。それを私に使ってくれたんだから頭なんて上がるハズも無い。でも裏社会の仕事や《悪魔の実》の取引って稼げるんだなぁ…)
よく分からないけれど、若様に出会えた幸運な[自分の運命]に感謝せざるを得ない。
海賊の彼に買われたので、ある程度の『戦える力』は身に付けることができたけれど、残念ながら[ドンキホーテファミリー]の一員になれるほどではなかったこの体。
それでもなにかはしたかったので『最前線に出る戦闘員』や『戦力を駆使して戦う』ことではなく、一応産まれた時から当たり前に教育された『人より磨かれた警戒心と諜報力』を駆使して[実はスパイ]をしている。
(シュガーちゃんのみたいに〈使える能力〉があれば非戦闘員でももっと役に立てるのに。なぜか私に《悪魔の実》くれないんだよね…)
『高いものだから?』とか『私にはもう大金を使ったから?』なんて疑問が浮かび、その度に首を振ってごまかす気持ち。
今も『身寄りの無い女が国王のツテで住み込みの仕事を探していた』とのていで『警戒の上の信頼』を得ようとしている。本当と目的を混ぜるのがポイント。上手くいくと情報を好きにできるから。
───これは『スパイ行為の定石』だが、若様は以前に『実の弟』にやられたらしい。その話をしていた時はとても、悲しそうだった。
「私は……絶対に裏切りませんからね」
