第2章 夢
_____懐かしい夢を見た。
きっとまだ、結婚の意味もよく知らない頃の夢。
そんな頃の約束を未だに覚えていて、そうなると信じているのは夢の見過ぎだろうか。
それが叶う可能性なんて、限りなく低いのに。
なぜなら約束を交わした相手はアイドルだから。
…に〜ちゃん、元気にしてるかな。
今はアイドル活動を休止中とはいえ、あの夢ノ咲学院の生徒であった彼が不人気なはずが無い。
帰りを望んでいるファンの人もたくさんいるだろう。
かくいう私もその一人で。
疎遠になってから三年が経とうとしている。
一緒に過ごした時間のほうが長いのに、それ以上に話をしていないように感じる。
当時、に〜ちゃんがスマホを持っていなかったのか、私が持っていなかったのか、はたまたその両方なのか私たちは連絡先を知らない。
親を通じて教えてもらうことは可能だろうが、あまり乗り気はしない。
普通の人でも知らない番号には抵抗があるのに、アイドルとなれば尚更神経質であろう。
それに、無いとは思いたいが忘れられている可能性だってある。
に〜ちゃんのアイドル生活や大学生活を邪魔したく無い気持ちもある。
に〜ちゃんのことが大好きだからあれこれ考えてしまう。
幼い頃から温め続けたに〜ちゃんへの想いは日に日に質量を増していく。
今までに〜ちゃん以外に恋愛感情を抱いたことはない。
初恋は叶わない、という言葉通りどれだけ一途に想い続けても叶わないものだろうか。
会って話がしたい。
に〜ちゃんの話を聞きたい。
告白とかじゃなくて、昔にみたいに。
それが最近の願いだった。
少し前まではテレビやネットなどでアイドル姿のに〜ちゃんは見ていたけれど、
大学生活に専念する、と言って活動を休止してからはに〜ちゃんの姿を見ていない。
もとよりそんなにアイドルに興味のない私は、に〜ちゃんのいない“Ra*bits”は追っていない。
たまにクラスの人たちが騒いでいるのを聞き流しているくらいで
自ら情報を追ったりライブへ足を運んだりといったことはしていない。
『もう会えなかったりして…』
思わず溢れた独り言は喧騒にかき消された。
そんな時、なんの悪戯かこんな情報がネットに流れた。
〈“Ra*bits”の仁兎なずな、活動再開〉