第1章 燐—りん—
「東先輩」
黎とふたり、並んで廊下を歩けば。
後ろからかけられた声に振り向いたのは黎も同じで。
「「何」」
同じキィの声色が、ハモる。
「あ…………」
一瞬たじろぎならも。
「、の!!『燐』、先輩!!」
意を決して差し出した紙袋。
「さっき授業でつく、って、あの、良かったら…………」
「…………」
授業で、ね。
差し出された紙袋、受け取った『黎』の笑顔に一瞬緊張が緩んだ彼女へとそのまま紙袋を突き返したのは、僕じゃない。
「ちゃんと見分けられるようになってからこーゆーの、渡しな」
「え」
「俺、黎、な」
「あ…………」
一気に青ざめる彼女に、可哀想、なんて感情が芽生えることもなく。
何事もなかったようにそのまま階段を降りた。
「…………泣いてたね、あの子」
「知らね」
「だよなー」
「他人が作ったもんとか、何の拷問だよったく」
「拷問て」
「何入ってっか、わかったもんじゃねーし」
「それな」
くすくす笑いながら降りた踊り場。
誰か見てるとか。
見られてるとか。
どーでもいい。
どーでもいいから。
目の前にあった同じ顔の自分に、口付けた。