第1章 燐—りん—
「…………っ、にぃ、ちゃ…っ、」
窓の外から、部活の勤しむ声が聞こえる。
生徒たちの放課後の喧騒が、風に乗ってここまで届く。
「…………も、だめ…………っ」
誰もいない。
誰も通らない旧校舎の資料室。
古びた神の匂いが、心地よく鼻に抜けてく。
バサバサバサ—————っ
「…………あーあ」
棚から落ちていく重そうな本を1冊、拾って。
「本は大切にしなきゃ、ねぇ?…………瑠璃」
「…………ご、めなさ…………っ」
同じ顔、同じ声の自分が、僕が今し方後ろから突き貫いている『妹』の、涎でぐちゃぐちゃになった顔を、顎を、捉えた。
「手、が…………、すべ…………っ!?」
うっとりと、僕じゃない自分に向けられた視線に苛ついて思い切り腰を打ち付ければ。
そのままバランスを崩して『黎(れい)』もろとも倒れ込む彼女、瑠璃。
「…………激しいねぇ、『お兄ちゃん』?」
「るっせ、黙れ」
「だって。瑠璃のお兄ちゃん、機嫌悪そう」
「…………ん、」
黎の指が瑠璃の頬に触れただけで。
気持ちよさそうに目を瞑る仕草にさえ。
「…………ずいぶん、感じてるね瑠璃」
そう、嫉妬に塗れた視線で瑠璃を見る黎の視線にさえ。
欲情する。
瑠璃に?
黎に?
欲情する。
「…………っああ…………っ!!」
びくん、て。
身体を震わせて黎のシャツを握りしめらながら、瑠璃が果ててもなお、止まってあげられない。
止まらない。
何度果てても、小さく震える柔らかなこの肢体を離せない。
「…………あんま苛めんなよ、『燐(りん)』」