第1章 1
「え?」
「大好きな彼女にはさ、一番カッコいい姿を見せたいんだよね。で、それには準備が必要な訳だ」
「見た目の準備の他にも、心の準備もな」
「松本くんが今日のライブを手を抜いてやろうとしてたっていう訳じゃないんだけど、自分の彼女が来るって分かってたら、もっと違うライブになったんじゃないかな、ってね」
「『ここは見せ場だから、もっとこうしたいんや!!』って気合い入れて来るだろうな」
「そして今回、その準備をすることも無くやっていたライブに、陽葵さんが来た」
「そりゃ動揺するな~」
ははは、と笑いながらRyuさんがスルメイカに手を伸ばす。
「……しかし、松本くんがあんなに動揺するとはね。う~ん、愛されてるね~」
原田さんがしみじみ言った言葉に、私は無言で手に持った缶チューハイに視線を落とす。
と、原田さんが笑顔で私に話しかけてきた。
「そうだ、良いこと教えてあげようか」
「良いこと…ですか?」
「打ち上げの時の松本くんね、かなり酒が回ると陽葵さんの話しかしなかったよ」
「!!??」
私はビックリして思わず立ち上がる。
「…えぇ!?」
私の反応に、原田さんとRyuさんは爆笑した。
一方で私は口に手を当てて、狼狽えていた。
「『俺の陽葵は~、めっちゃくちゃ可愛いんですよ~』とか」
「『あいつの手料理が、これまた美味くて!!』とか」
「最後に『あー、早く逢いたいわ…』って言って、パタッと寝るんだよね」
私は顔を真っ赤にさせて、イスにストンと座り込んだ。
「そ、そんなこと言ってたんですか…!?」
「「飲む度、毎晩」」
「毎晩…」
「まだあるけど、聞く?」
真っ赤な頬に手を当てて、私は目を見開き、首を横に振る。
喧嘩してても、遠く離れても、私のことを想っててくれた…?
───ねぇ、私は、自惚れて良いのかな?
【あなたに訊きたいことが、たくさんあるの。
あなたに言いたいことも、たくさんあるの。】
早く、逢いたい……。
逢ってちゃんと訊かなきゃ。
ちゃんと言わなきゃ。
《まだ怒ってる?》
《私がいけなかったね。ごめんね。》
《それと、》
《私のことを想っててくれたの?》
《ありがとう。》
《私も、》
《逢いたかったよ。》