第10章 ド屑
―――そしてやって来た定例舞踏会。
王子はエルシをエスコートしたいんじゃないかしら。
待ちもせず、幼馴染のセヴェリの馬車で会場に向かう。
セヴェリの手を取り入場すれば、一斉に会場中の視線が私に集まる。
もう何やら始まっているらしい。
「さあ王子、仰ってくださいな。私を正室にすると!!」
エルシが王子の腕にもたれて言う。
ああ、説明を有難う。そういう話をなさってたのね。
「いや、正室はレーナだが」
王子がエルシを抱き寄せて言う。
「「「へ?」」」
エルシとその周りにいた彼女のグッドルッキングガイが声を上げた。
「王家の正室は代々三大公爵家から選ぶならわしで、レーナは余と歳も同じだし后教育も受けている。正当な余の婚約者だ」
王子は愛し気にエルシの肩を撫でながら言う。
「おい、アールノ、いつもエルシを愛していると言っているじゃないか」
王子の親友、スヴェン様が口を挟む。
彼もエルシのグッドルッキングガイなの。まあ。
「お前、エルシと寝たか?」
王子が問う。冷たい声で。
「なっ?!……親友の恋人に手を出す訳ないだろ!」
スヴェン様が言うと王子は嘆息する。
「そうか。あまりにバカな事を言い出すから、エルシにたらし込まれたのかと思ったわ」
王子の言葉に今度は、別の友人―――マルクス様が口を開く。
「でも、王子はエルシを愛しているんでしょう?」
マルクス様の言葉に頷き、王子は青い顔をして震えているエルシを抱き寄せた。
「ああ、愛しておる。エルシといると楽で良い。可愛い。だから余はそう言う『愛している』『可愛い』と」
「「ならばっ」」
スヴェン様とマルクス様が一緒に発すれば、王子は又嘆息する。