第10章 ド屑
王子は来る者拒まず去るもの追わずというスタンスだ。
平気で複数人の女性と交際したりした。
だからなのか関係は長続きしない。
私も居るし。
だけど最近しぶとい娘がいるのだ。
そう名前は何だったかしら?そうそう。『エルシ』。
『リエッキネン子爵』令嬢。
正室は無理ね。私がいるし、王家の第一夫人は代々三大公爵家に生まれた娘の中から選ばれる。
なのに、王子に『可愛い』『愛してる』と持て囃され、最近等私にまで『王子は毎日私を愛しいと仰ってくれるのです』と宣う始末。
羨ましい?
そんな訳ないわ。
確かに王子は私に毎日『愛してる』『可愛い』なんて言わない。
でも何だからなんなの?
私が王家に一番に嫁ぐのは変わらないわ。
でも勝手にエルシは私を敵視していた。
言っても分からないみたいだし、放置してるけれど。
―――そして冒頭に戻る。
聞き取り調査の結果―――次の定例舞踏会で、エルシと彼女のグッドルッキングガイ達が私を糾弾するらしい、という情報を得た。
―――はぁぁぁぁぁぁ(深いため息)。
確かに何回か校舎裏に呼び出したし、その時ちょっとばかりヤキ入れたつもりだったのに足りなかったのかしら。
足りなかったのよね。
分かってるのかしら、私の生家は宰相やってるのよ?
爵位や領地を奪う事だって出来るのに。
嗚呼、私の行使出来る権力が怖い。
勿論私情で使う事は出来ないけど、でも、ね?
理由さえあれば、ね?
エルシは何やら私の悪い噂を流しているらしい。
王子に付きまとっているのをやっかんだ令嬢達に転ばされた傷を『あの……きっと見間違いです。レーナ様がそんな……』とか嘯いているらしいが、私と親しい方がそれを信じる訳ないし、そうでない方は笑うばかりだ。
私が嫌いでも『アハティアラ家』を敵に回したい人なんかいないの。