第6章 断罪イベントは蜜の味
パンパンのパーティーバッグを開き書類を出す。
こんな場面でも、カバンの底にしまった殿下から頂いた扇を見ると勇気が湧いてきた。
―――おかしいわね、今から殿下を貶めるというのに。
「『あんっ、いけないわ、ルーカス、私聖女なのよ?』
『もう我慢できないんだエメリ、良いだろう?処女でありさえすれば良いんだから』
『あっ、そんな風に触られたらっ』
『愛してるんだ、エメリ』」
―――いきなり始まった朗読に場がざわつく。
でーも、これで終わりじゃないのよ。
「『あっ、だめよ、ヨーラン、私恥ずかしいわ』
『そんな事を言っても全然手に力が入っていませんよ、エメリ』
『あはんっ、だってあなたがあまりに素敵だから』
『愛していますよ、エメリ』」
―――違う人物名の入った朗読に又ざわめきが起きる。
まだまだいくわよ!
「『ああんっ、いけませんわ、マティアス様』
『君がいけないんだエメリ』
『んっ、だって好きになってしまったのですもの』
『私だけの小鳥でいておくれ、エメリ』」
―――そろそろ皆確信を持って聞いているだろう。
最後に……。
「『あぁんっ、愛しております、フィリップ殿下』
『勿論私もだよ、レーヴェンヒェルム嬢』
『ああそんなっ、エメリとお呼びくださいましな』
『良いのかい?愛しのエメリ。私の聖女……』」
―――ざわめきが大きさを増し、当事者達が顔を見合わせる。
エメリは特別な癒し手、所謂聖女だ。
聖女は代々、嫁ぐまでその神聖さを保つ為処女でなければいけないとされていた。