第23章 あらぬ疑い
「あの、ジェイさん……」
夕食の下ごしらえ中、厨房に一人の客人がやって来た。困ったような顔をしていたムースさんだった。
「すいやせん、ムースさん。まだ夕食には早いんすが……」
彼女が間食を求めてここに来るイメージはないなぁと思いながら俺が言うと、ムースさんは激しく首を振った。
「ち、違うんです……っ、その、ご、ご相談がありまして……」
相変わらず震えた声のムースさんだったが、本当に困っているように見えた。やっぱムースさんも空腹に耐えられずに来たのかな、と作業を中断してカウンターへ向かうと、彼女の顔はますます困ったような顔になった。あ、もしかして俺の顔が怖かったのかもしれねぇ。
「相談ってなんです? 俺の出来ることなら手伝いたいんすが」
と俺が言うと、ムースさんの顔がちょっとだけ柔らかくなった気がした。それって俺にちょっとは慣れてくれたってことなのかな。
「あの、実は……」ムースさんはおどおどしながら言葉を紡いでいった。「ムース、見ちゃったんです……ソーンズさんが、ドクターの手足を縛っていたのを……」
「ソーンズさんが?」
ソーンズさんなら知っている。食堂にはめったに会わないが、作戦で時々顔を合わせていた。なんだか研究中に爆発させているという話もロドス中では有名だ。
あまり喋ったことはないが人に嫌なことをするようなタイプには見えなかった。むしろそんな無駄っぽいことするだろうか、と考えて俺は気づく。確かドクターの業務作業に対しては厳しかったかもしれねぇ。その罰だったりするのか……?