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ロドスの日常[方舟]

第12章 優しく逞しく


「すまない、私では届かないみたいだ」
「お前でも届かないのか。なら、私がお前を持ち上げたら届くか?」
「え」
 フリントは力が強いとはいえ、背丈は私の方がある。なんだかそれは絵面的によくないような、と一瞬思ったが、ここでもフリントは迷わず私を肩から抱えて持ち上げたのだ!
 ちょっとこれは倒れてしまうと思いきや、フリントの体幹は素晴らしくしっかりしていて、私は全くバランスを崩すことなく花瓶を取ることに成功した。下ろすのも丁寧で頼りになるし、私は彼女に助けられてばかりなのだなと改めて感じるばかりだ。
「ありがとう、ドクター。助かったよ」
「いや、助かってるのはこっちの方だよ」
 花瓶を受け取るなりフリントは礼を言ったが、助かっているのは私の方である。
「ついでなんだけど、フリント……この棚を動かすのを手伝ってくれないかな?」
「それはいいが、何するんだ?」
「ハイビスカスから貰ったプレゼントを、下に落としてしまって」
「それは大変だ」
 そうしてフリントは、ほぼ一人で棚を動かして私はようやく紫のリボンを回収した。少し埃まみれになってしまっている。また掃除をしないとな……アーミヤに見つからないように。
「それがプレゼントか?」
 フリントが紫のリボンを見やる。
「そうなんだ。フェンとお揃いなんだよ」
「大事にしないとな」
 フリントは優しく笑った。彼女は激しい戦場に行くことも多く、ロドスに来る前からもその拳を振り続けて来ただろうに、大事なことをちゃんとよく知っている。惚れてしまいそうなくらいイケメンだ。
「たまには、私から頭を撫でてもいいかい?」
「え? まぁお前からなら構わないが……」
「ありがとう、フリント」
 私が今出来る、彼女への精一杯の感謝の印だ。

 おしまい
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