第7章 あなたの宝石
「ご満足頂けませんでしたか? ドクター」
ディアマンテにはよく私の心境を見抜かれる。私が言葉少ないからだろうが、ディアマンテの言葉に頷けるのも正答ではない気がして、曖昧な返事をするしかなかった。
「うーん、何かが足りない気がして」
宝石にこれ以上付け足すものはないはずなのに、私はそう口をついていた。だけど私のこの曖昧な回答に、ディアマンテだけは正答を知っていたらしい。ディアマンテは言った。
「おや、そうでしたか。では返してもらいますか」
「あ、ああ……」
まぁ確かに、私のところに宝石があってもなんの価値もない。部屋に飾りたい気持ちはあったけれど、と思っていた矢先に私の目の前でディアマンテは宝石を砕いたのだ!
「あ」
と声が出た時にはもう遅い。粉々になった宝石は彼の手元であちこちに小さな光を残すだけとなってしまった。私はそれを残念だと思う反面、なんともいえないゾクゾク感に駆られて形容が出来なかった。
「ご満足頂けましたか?」
ディアマンテはいつもの意味深そうな微笑みで私へ視線を投げた。私は今、どんな顔をしているのだろうか。少し考えて私は気づいた。ああ、そうなのか。私は彼が宝石を砕いているのを見るのが好きなのだ。彼がそうやって砕いた宝石を、私は完成品だと思い込んでいる。
「こちらをご所望ですか?」
ディアマンテは粉々になった宝石を丁寧にハンカチに包んで私に差し出した。こんなものを部屋に飾っていたら他のオペレーターたちには怪しまれてしまうだろう。だが私は、それを受け取った。
「ありがとう、ディアマンテ」
私がそれを受け取ると、ディアマンテは満足したように宿舎を後にした。私は砕けた宝石の包みを持ちながら、高揚感に浮かされていることを自覚した。
のちに、宝石に詳しいサンドレコナーに砕けた宝石を見せると、かなり高価な宝石なのだという話を聞いた。レオンハルトからはこんな話も。
「宝石言葉ってのがあってね、その言葉に想いを乗せて、大事な人に宝石を贈る風習がある地域もあるんだよ」
「じゃあ、この宝石言葉はなんだったんだい?」
「それは……僕からは言えないかな」
真相は謎に包まれたままだ。
おしまい