第5章 癒しの尻尾
それで私が、医療部のベットで目が覚めたってことである。
何がなんだか頭がはっきりしないままケルシーからお小言を貰い、アーミヤからは心配の言葉を掛けられた。どちらも申し訳ないなと思いながらも頭のどこかではキアーベの尻尾の感触が忘れられず、ぼんやりとしていた。キアーベも、私が尻尾を触りたいと言ったことはケルシーには話していないらしい。尻尾のことは何も言われはしなかった。
だが。
後日、執務室で仕事をしていると、失礼しますと訪問者が現れた。マッターホルンだ。
「報告書をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
また人事部が忙しいのかな、と私が思っていると、マッターホルンは報告書を所定の場所から置いてもそこから動かなかった。不審に思った私は彼の顔を見上げたが、特段変わった表情はない。
「……何かあったかい?」
私が訊ねると、ああ、いや……と少し淀みながらもマッターホルンはこう答えた。
「キアーベから話を聞いたもので。私の尻尾じゃ満足しないかもしれませんが、一応ご確認をと思いまして」
キアーベが。あのキアーベが? ケルシーに言わずにマッターホルンに言ったと? 私の恥ずかしい話を?
今思えばキアーベにあんなことを頼んだのは失敗だったと思った。あの時の私の思考回路の低下に懺悔を。私は渋々言った。
「その……あの時は疲れていたんだ。それで、気づいたらあんなことを」
私は項垂れた。これ以上詳細は語れないし語りたくもない。私が黙っていると、マッターホルンが言葉を続けてくれた。
「私の尻尾で良ければ、私は構いません」
え? ほんとに? ガチ?
「いいの……?」
私は恐る恐る顔を上げる。マッターホルンの顔はいつも通りだし、冗談で言った様子もない。そうか、そうだった。マッターホルンというのはこんなにも良い奴だったのだ。
「ありがとう……」
私はまた泣き出してしまわないようにグッと堪えて感謝し、マッターホルンにソファに座ってもらう。私はその隣に腰掛け、マッターホルンのお腹辺りにその尻尾が来るようにしてもらった。