第29章 シンク磨き
ロドスに来てから、俺は当番制で皆の飯を作るようになった。
まぁ飯作ることくらい前に龍門でやってたし苦労はしていない。だがロドスという場所はよく泥棒めいたことをするオペレーターたちがいた。マッターホルンさんがいつも頭悩ましていたっけ。
「そんなに慌てなくても飯は充分あるのにな……」
飯が充分に食えない環境から来た人がいることも分かってはいるが、確かにこのロドスは豊かだなと俺は思う。そうして誰に聞かせる訳でもない独り言を吐きながら食堂に来ると人影が。
あー、腹空かせた誰かがこんな早朝に誰かが冷蔵庫でも漁ってんのかな。
一応様子だけでも見てみようと懐にある包丁の場所を確認しながら厨房を覗き込むと、その人影は冷蔵庫の前でもなく、水場に立っていて驚いた。なんだ? 鍋でも盗みに来たのか……?
「んー、上手く取れないな……」
その人物が一人そんなことを言い出してビックリした。俺はその声をよく聞いたことがある。俺は手元を包丁から離して厨房に入って行った。
「何してんすか、大将」
「わー、ごめんごめん! 別に何も私はシンク掃除なんかしてないから!!」
軽い気持ちで声を掛けたつもりだったのに、思った以上にデカイ声が返ってきて俺はビックリした。
そして怯えた顔で振り向く大将を見て俺はなんて言ったらいいか分かんなかったが、俺を見るなり安心したように息を吐いた。
「良かった、ジェイだったか……」
俺の顔より怖いもんなんているんだな、と思いながら俺は大将に言ってみた。
「何してたんすか、大将。小腹空いたんなら軽く作りやすよ」
「あーいや、違うんだよ」と答え始める時には、背筋を伸ばしていつもの大将になっていた。「健康管理というのは掃除だってちゃんとした方がいいだろう? 私には大したことが出来ないからさ、掃除くらいはしようと思って」
「え」
まさか大将がそんなことを? と俺は水場を覗き込んだ。水場は電気の明かりを照り返すくらいキレイに磨かれていて俺はビックリした。
「すいやせん、そろそろ掃除しなきゃと思ってたんすが……こんなにキレイになるんすね」
シンク磨きを忘れてた俺を叱りに来たのかなと思いながら俺がそう言うと、大将はにこやかに笑った。