第2章 トイレ掃除
私は、鉱石病の治療法を研究していたらしい。
そのことだけは、どんな資料を見ても全く理解出来なかったし、研究を続けることも出来なくなっていたのだ。ただ、私が記憶喪失前に残した様々な資料でロドスの研究者たちが研究を続けてはいるらしいが。
とにかくそう考えると、私が彼らオペレーターや患者のためにしてあげられることが、少なくなっていたのだ。
「……少し言い方はキツかったかもしれません、ごめんなさい、ドクター」
アーミヤは自分の言葉に反省しながら俯いた。感情豊かな彼女のコータスな耳が、大きく垂れ下がっている。
「いや、悪いのは私の方だ。すまない、アーミヤ、思い出せなくて……」
記憶喪失な自分を何度恨めしいと思ったことか。だけどアーミヤは首を振った。
「それはドクターも悪くないです。この戦場にドクターを巻き込んだのは……私ですから」
と俯き加減になるアーミヤの表情には、憂いを含んでいた。
「アーミヤの信念は充分理解しているし、それに私も従おうと思ったのは今の私の意志だ。だからそんな顔をしないでくれ」
私は少し屈んでアーミヤの目線の高さに合わせる。アーミヤは目を伏せた。
「分かってます……」それからアーミヤはふと顔を上げて。「でも、ドクターがトイレ掃除をすることはないんですよ? そんなに臭いが気になったのなら、言ってくれれば良かったのに……」
「いや、違うんだよ」
話が逸れたかと思ったが、やはり戻されて狼狽える私。私は最後までちゃんと話そうと思った。