第16章 N氏の話を信じるな。
『ダーはあーしの『タチ』を知ってるけど、お家問題だからナ。あーしの個人意志よりそっちを優先するだろうし』
悲しそうな彼女の声に同情したというのもある。
『一つ条件がある』
と、彼女は交換条件を出してきた。
双方、『白い結婚』に同意させ、互いに恋人と番う。
その代わり、時期がきたら『恋人』同士で子供を作る事―――。
『あーしはダーの子を産む気なんてサラサラ無いし。でもあーしが心から愛せる子供が必要なんだよ。ダーにとってもナ。だからあーしの愛する恋人と、ダーの愛する恋人の間にできた子なら、絶対お互い可愛がれるだろ』
それはとてもじゃないが正気とは思えない提案で。
『都合のいい男と女が出来ると思やぁ良い』
気が狂っている。だが断ったら?
成部は彼女を抱くのだろうか?
少年の様な可細い体を抱く成部を想像して那由太は吐き気を覚える。
なら、それが自分だって良いじゃないか?
『さあどうするし?』
成部の婚約者を名乗る女に突き付けられたその話に乗らなかったら……成部を手に入れるチャンスはなくなってしまう。
成部は何だか今日の流れを『知っている』様な素振りだったが?
誰が誰に騙されているのか?
そんな事より……。
今日何があったかを楽しく話す彼女の言葉を聞きながら、那由太は振り向き静かに寝ている成部を見た。
―――彼を愛していて、この想いをくじかずにいられるなら、何でも良い。
その為なら成部だって欺いてみせるから。
那由太はゆるりと笑う。