【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第9章 花街に毒の花が咲く⑤
『俺を好きだと言ってくれないか?』
月娘の脳裏に壬氏の顔が浮かんだ。
(ああ…瑞……。愛してます。貴方だけを……。)
壬氏は月娘が泣いたら涙を拭ってくれた。
だけど今その手は無かった。
夏潤の手が月娘の着物に入ってきた時に、月娘は少しだけ手が自由に動かせた。
「!!!!」
その隙間で月娘は夏潤の腰元にあった刀剣を握った。
スルッと刀剣が鞘から抜ける時に、同時に夏潤の腰を掠めた。
その痛みに、夏潤は月娘の身体を手放した。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
月娘は刀剣を握ると自分の身体を守る様に夏潤に向けた。
初めて握る刀剣は重くて、極度の緊張をしていた月娘の手では震えていて、ちゃんと刃先は夏潤に向かっていない。
「…… 月娘、危ないからソレを俺に寄越せ。」
今の様な持ち方では、傷付いてしまうのは月娘の身体だった。
「……嫌です。」
月娘は更にギュッと強く刀剣を握りしめる。
カタカタ震えている刀剣はだんだんと月娘の身体に近付いていく。