【薬屋のひとりごと】後宮の外に咲く毒の華【R指定】
第9章 花街に毒の花が咲く⑤
「〜♪〜♪」
楽しそうに鼻歌を歌って馬車外を見ているのは夏潤(ハユン)だった。
ご丁寧にその曲はあの流行歌だった。
月娘と僑香(きょうこう)は夏潤の向かいに座り、僑香は夏潤を睨み付ける様に見ていた。
月娘の表情には感情が見えず、無表情で夏潤を見ていた。
「…そんなに睨むなよ僑香。久しぶりに会った幼馴染が傷付くぞ。」
そう言って夏潤は僑香を見て微笑むが、普段から壬氏と月娘を見ている僑香には、イケメンの笑みには抗体が出来ている。
僑香は今でこそ月娘の侍女だったが、年が近い月娘とは、幼い頃から交流があった。
僑香もまた名家の令嬢である。
この3人は昔からの顔馴染みだった。
「月娘は、俺に会えて嬉しく無いのか?」
ジッと無表情に自分を見てくる月娘に、夏潤は目を細めて聞いた。
夏潤の言葉を聞くと、月娘は徐にニッコリ笑った。
「夏兄様に会えたのだもの。嬉しいに決まっているわ。」
その作り笑いを見ても、薄っすらと笑みを浮かべている夏潤の表情は変わらなかった。
「……手が震えてるな…どうした?」