第2章 人形の家
時刻が21時を過ぎた頃。
「動きは?」
「ありません」
既に夜も更けて来た頃のせいか、ぼーさんは大きな欠伸をする。
それに釣られてあたしも欠伸をしてしまった。
「やめてよ、ぼーさん。あたしまで眠くなる」
「仕方ないでしょーが。眠くなるもんは、眠くなるんだい」
「もう21時すぎちゃったもんねぇ……」
なんて他愛のない話をしている時だった。
勢いよくベースの扉が開いて、香奈さんが飛び込んできたのだ。
「香奈さん?」
「ちょっときて!」
「どうしました?」
「いいからはやく!」
慌てた様子の香奈さんに全員が不思議そうにしながらも、彼女についていく。
すると香奈さんは礼美ちゃんの部屋まで向かい、彼女の部屋の扉を開けたが、中の光景を見て唖然としてしまった。
「礼美ちゃんをねかしつけようと思ってきてみたらこうよ!」
礼美ちゃんの部屋は、とんでもない光景となっていた。
なんと家具やベッドにカーペット全てが斜めになっているのだ。
そんな中で、礼美ちゃんだけはミニーを抱えてキョトンとしている。
「どうなってるの?こういうことがおさまるようにきてくれたんでしょ!?」
香奈さんはかなりパニックになっているようだ。
そんな中で、後から来た綾子がとんでもないことを言い出す。
「その子がやったんじゃないでしょうね」
「できるわけないでしょ!?」
「小さい子が一人で家具やらベッドを動かせるわけないじゃん!」
「だな。上の家具がのったままだし、おれでもムリだ。それともおまえできんのか?」
ぼーさんは『やれやれ』と言いたげにしながらも、カーペットを捲って見ていた。
「とりあえず部屋を調べてみたいのですが」
「どうぞ!わたしたちは下にいますから。さ、礼美ちゃん」
香奈さんは礼美ちゃんの手を取り、部屋を出ようとした。
だが礼美ちゃんは今にも泣きそうな表情で、あたしと麻衣を見てくる。
「……礼美じゃないよ」
「うん、ちがうもんね」
「礼美ちゃんじゃないの、ちゃんとわかってるよ」
微笑んでみせたら、礼美ちゃんは小さく頷いて香奈さんと共に下へと降りていった。
「どう思う、ナルちゃん」
「こんなことができる人間がいたらお目にかかりたいな。なんの痕跡もない。人間にはムリだな」