第10章 悪夢の棲む家
「これは怪電話の最後の一本から抽出した声です。これから声の特徴を割り出す事ができます。比較すれば同一人物かどうか数値的に判断できる。笹倉さん、ご主人と息子さんの声を録音する事に同意していただけますか」
ナルの静かなる言葉に笹倉夫人は叫んだ。
「──いやよ!冗談じゃないわ!とんだ言いがかりはやめてちょうだい!!あたしたちがやったですって?だっ……だいたいどうやって戸締りしてある家の中に入ったっていうのよ、鍵もないのに!!」
「鍵は必要ない。進入路があるんです」
「……進入路だと?」
パソコンのキーボードをナルは叩く。
そしてパソコンの画面には扉のようなものの画像であった。
「これは超音波の反射を映像化したものです。ここに見えるのはおそらくシリンダー錠の跡。こちらは鍵穴とノブの軸の跡でしょう」
「ドア……か?こんなものがどこに」
「廊下の突き当たりにある姿見」
ナルの言葉に阿川母娘が驚愕する。
「誰かが侵入したのから、進入路があるはずです。そう思ってみるとあの姿見は大きさも形状もドアに酷似しています。もしも一枚ガラスの入ったドアに他の窓と同じように鏡を入れたとしたら──一見して姿見のように見えないでしょうか。鏡面に超音波を当ててみると、鏡の向こうには何もない事がわかります。あるべきはずの壁がない。蝶番に見えないから、外開きのドアだったはずです。おそらく裏口用の」
「でもあそこには裏の建物しかありません。どうして裏口なんか……」
「あのドアの外はごく狭い裏庭になっているんです」
「……あの場所は裏の建物じゃなかったんですか!?」
「幅は建物の分だけ。奥行はわずか八十センチ程度しかない。三方に隣接して建物が建てられ、庭としての用を足さなくなった。それで塞いだという事でしょうね」
「二階から見えてはいたんですが、出入口もないし……不動産屋さんも何も──行ってみられたんですか?」
翠は困惑気味になっていた。
そしてナルを驚いた様子を見せながら見る。
「ええ。外側を確認したところ間違いなくドアでした。枠はアルミサッシ製でしたが、内側は元々の枠の上に化粧板を張ったんでしょう。ノブは外されたまま塞がれてさえいなかった」