第10章 悪夢の棲む家
『笹倉さんとのおつきあいはほとんどありません。ちょっと苦手な方なので……』
直ぐに翠が苦手だと言った理由がわかった気がした。
(なるほど。こういう事か)
広田は溜息を吐き出しそうになりながらも、中に笹倉夫人を入れないようにした、
「結構です。今、 来客中なので」
「そう?遠慮しなくていいのよ。そういえば昨日はずいぶん人が出入りしてたものねぇ。ご親戚?お泊まりだったの?いつまでいらっしゃるの?荷物をたくさん運び込んだり屋根に上がったりもしてたわよね。何してたの?」
広田は思わず眉を寄せた。
(……この女──ずっと監視でもしてたのか?)
気味の悪さを感じた。
広田は流石に心霊調査の人間が来ているとは言えずに、上手く言い訳を考えた。
「……あれは……ええと……俺の友達です。家の中で機械の故障が多いんで、詳しい友達に来てもらったんです。すみません。これからまたみんなでゴソゴソやるんで──」
嘘を混ぜ込みながら喋っていると、笹倉夫人は広田の腕に触れた。
そして妙に気味の悪い笑みを浮かべている。
「あなた、本当に翠さんの従兄弟?どうしていきなり下宿なんて始めたの?本当は何か目的があるんじゃないの?」
「──なんの話ですか」
「この家で何か起こってるんじゃない?」
広田の腕を掴んでいる笹倉夫人の手に力が入り、思わず広田は眉を寄せてしまう。
「昔、ここで自殺した人がいるのよ。知ってる?前の人もそれで出て行ったのよ、気味が悪いって。本当はそれが理由なんでしょう?この間もその事を聞きに来た男の子がいたわ。あれもあなたのお友達なんじゃないの?ねえ、なんで隠すの?何か、まずい事でもあったの?」
「いい加減に──」
「広田さん、どうしたんです。まだですか?」
怒鳴りそうになった所で、ナルが声をかけてきた。
思わずナルの登場に広田は安堵したように息を吐き出してから、笹倉夫人を帰して玄関の鍵を施錠した。
「……すまない、助かった」
「誰です?ずいぶんと好奇心が旺盛な方のようでしたが」
「笹倉夫人だ、隣の。……いつから聞いてた?」
「ほぼ最初からでしょう。チャイムの音で目が覚めましたから。どういう方だがご存知ですか」
早く起きていたのなら、早く助けろと広田は思わず思ってしまった。