第10章 悪夢の棲む家
計測を終えた双子はベースとなった和室へと向かう。
障子を開ければ既に機材の設置が終わっていて、リンは既に仕事をしている。
「ただいまー」
「戻りましたー」
「遅い。結果は」
「特に気温の低い部屋はありません、ボス。本当に窓がないんだね、この家。湿気が凄いし」
「ついでに採光と湿度も測っておきましたー」
結衣と麻衣はナルにバインダーを渡す。
「ちょっと見ない間に猿よりは利口になったらしいな」
相変わらずの物言いに双子は頬を膨らませる。
少しは素直に褒めたらどうなんだと思いながらも、ナルがするわけないかと結衣は溜息を吐き出す。
「人を祖先と比較すんなっつの。ナルが面倒くさがって説明をはぶくからあたしと結衣がなかなか仕事覚えられなかったんだからね!」
「そーだそーだ!」
「床の傾斜も計っておく気にはならなかったのか?」
「「あ」」
ナルの言葉に双子は固まる。
その考えはなかった……と。
「そっか。家が歪んでる可能性──すみません」
「その考えには至りませんでした……申し訳ありません」
「麻衣と結衣にそこまでの期待はしていない」
言い返せないと双子は悔しそうにする。
「──で?これからの調査方針は?」
「とにかく一日様子を見る。さほど切羽詰まった状態ではないだろう。ポルターガイストかどうかは今夜暗示実験をする。あとは阿川夫人と広田氏に事情を訊いて、とりあえずはそれで終わりだろうな」
阿川夫人という言葉で双子は翠の母親の姿を思い出す。
虚ろな目に無表情で、ずっと頭を下げていた姿。
「お母さん、かなり参っちゃってるみたいだったよね」
「うん……」
「ねえ、もしRSPKだとしてその犯人が異常に疲れちゃうとかある?」
「あるな」
「やっぱポルターガイストを起こすのって体力を使うんだ」
「気力の問題なのかもしれないけどね」
「馬鹿、逆だ。RSPKでしばしば犯人が焦点(フォーカス)となり被害が集中する。一番の被害者になるから最も消耗するという事だろうな」
なるほど……と結衣は頬をかいた。
「じゃあ、ポルターガイストを起こすから疲れるってわけじゃないんだ」