第10章 悪夢の棲む家
人の良さそうな好青年だ。
いかにも霊能者には見えない青年に、広田と翠は数回瞬きをしてから彼を見る。
「……ああ……その……所長をお願いしたいんだが」
呆気に取られていた広田はなんとか正気になり、青年にそう言うと彼は少し申し訳なさそうにした。
「申し訳ありません。あいにく所長は旅行中でして。本日戻ってくる予定だったのですが、飛行機が遅れまして。たぶん成田からこちらに移動中だと思うんですが」
青年の言葉に広田と翠は顔を見合わせる。
「それならしばらく待たせてもらっても構わないか?」
「もちろんです。どうぞこちらへ」
案内された二人は事務所の中を見てまたもや唖然とする。
清潔かつ綺麗なものであり、観葉植物に綺麗に並べられた本に小綺麗な皮のソファとテーブル。
あまりにも予想していた霊能者関係の事務所には見えない。
「……あまり、心霊現象の調査事務所という雰囲気じゃないな」
「みなさんそうおっしゃいます。よろしければお待ちいただく間に調査員からご相談の内容をうかがわせていただいても?」
「いいですか?」
「はい」
「では少々お待ちください」
青年は相変わらずの人の良さそうな笑みを浮かべながら、とある仕切られた場所へと向かう。
「谷山さんたち。依頼の方です」
「あっ、はい!」
「了解です!」
どんな調査員が出てくるものか。
広田は少し息を吐き出しながら待っていれば、足音が聞こえてきた。
「失礼します。調査員の谷山麻衣と申します」
「同じく調査員の谷山結衣と申します。ご依頼の内容をうかがわせてください」
出てきた二人は学生服を身にまとった少女達だ。
一人はショートカットの少女、もう一人は肩より少し下ぐらいの長さの髪をした少女。
何処と無く似ている……という風貌の二人であり、広田と翠は一瞬『姉妹?』と思ったがすぐに我に返った。
そんな二人を他所に少女たちは目の前のソファに腰掛け、ファイルを開く。
「……調査員?君たちが!?高校生くらいじゃないのか?」
「はい。二年生です」
「大丈夫です。彼女たちは若いですけど、ちゃんと責任は果たしますから。うちの所長は無能な人間に調査員の肩書きを与えるほど甘くないんです」
ニッコリと微笑む青年は広田と翠の目の前にティーカップを置いた。