• テキストサイズ

ハツコイソウ【ゴーストハント/滝川法生】

第10章 悪夢の棲む家


ーthird person singularー


「『渋谷サイキック・リサーチ』……?そこにうちの調査をお願いするんですか?」


阿川翠は何処か不安げに隣に立って歩く男に聞いた。


「そうです。仕事関係で偶然知った調査事務所なんですが、奇妙な出来事──いわゆる心霊現象とやらの調査を専門に扱っているようで」


男の名前は広田正義。
彼は玄道坂を翠と歩きながら、『渋谷サイキック・リサーチ事務所』へと向かっていた。


「今我が家で起こっているような事を……ですね」

「とんでもない悪徳業者ではあれば、もちろん関わらせません。過去にも何件かその手の事件の調査・解決の実績があるらしくて。依頼主の身元それなりにしっかりしているようなので、翠さんのお宅の件の相談だけでもと思いまして」

「……すみません。友人の紹介とはいえ広田さんにはこんな事でご迷惑をおかけして……」

「別に迷惑なんかじゃありませんよ」


広田は微笑みを浮かべる。
彼は別に迷惑なんて思ってはいないのだ。
逆に彼女に対して感謝しているところがある。


(──そう。迷惑どころか感謝したいくらいだ。“奴”に探りを入れるためのチャンスをくれたんだから。彼女には申し訳ないが協力してもらおう)


広田は純粋に翠を心配して、『渋谷サイキック・リサーチ』を勧めたわけではなかった。
逆に彼女が悩まされている事にチャンスだと思い、言い方が悪いが利用させてもらおうと思っていたのだ。
全ては『渋谷サイキック・リサーチ』のとある人物を探るため。


「ああ。確かあのビルです」


広田が指さしたビルは綺麗なものだった。
一階はお洒落な喫茶店があり、上にはエスカレーターが装備されている。

二人は呆気に取られながらもエスカレーターで二階に上がり、少し驚いてしまった。
SPRと書かれた扉は一件お洒落であり、どこかの喫茶店だと間違えそうだ。


「……私、もっとおどろおどろしい所かと──。あの……霊能者の事務所ってこういうものなんですか?」

「さあ……俺もこういう所は初めてなので……。と、とにかく入ってみましょう。やばそうだったら引き返せばいい」


広田は少し緊張気味で扉を開けた。
すると来客を知らせるベルが鳴り、事務所の中が見えて中にいた人物が立ち上がる。


「こんにちは。ご相談ですか?」
/ 633ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp