第9章 忘れられた子どもたち
息が止まるかと思った。
思考が上手く定まらなくて、あたしはただただ目を見開かせながらぼーさんを見上げる。
「は……?」
夢なのだろうか。
先程、ぼーさんは『好きな女に』と言った。
これは夢なのだろうかと思っていれば、ぼーさんはあたしの頬に優しく手を添えてして触れてくる。
「は、え……は?」
「好きだ、結衣。好きだよ」
優しく微笑んでくるぼーさんにあたしは動きが止まる。
そして震える唇で言葉を紡いだ。
「つまり……両思いってこと……?」
「おー、そうだな」
「夢?え?」
「夢じゃねぇよ……。ていうかおれ、結構アピールしてたほうだけどな。おまえ鈍感だから困ってたんだよなぁ」
やれやれと言いたげにぼーさんは笑う。
「おれさ……本当はお前が成人するまで待とうかなと思ってたんだよ。未成年が成人のしかも三十路近いおじさんと付き合ってるなんて知られたらお前が大変じゃねぇかと思ったから。だから、我慢しようとしたけど……無理だわな」
「付き合うって……もしかして、あたしがぼーさんのこと好きだったのバレてた!?」
「まあ……好意を持たれてるってのは分かってた。でもイマイチ確信が持てなくて……でも今、確信した」
「う、うそぉ……」
恥ずかしくて顔に熱が集まるのに気が付いた。
そんなあたしにぼーさんは微笑みを浮かべながら、ゆっくとり顔を近づけてくる。
「好きだ。好きだ結衣。だから……おれと恋人になってくれるか?こんなおじさんだけど、おれを彼氏にしてくれ」
「……それ、あたしのセリフでもあるよ」
クスッとぼーさんは微笑んでから、ゆっくりと顔を近づけてから囁く。
「目、閉じろ」
その言葉に顔を真っ赤にさせるが、震える身体であたしはゆっくりと目を閉ざす。
数秒してから、唇に柔らかくて少しカサついたぼーさんの唇が触れる。
優しくて触れるだけの本当に暖かいキス。
そしてすぐに離れていく唇に名残惜しさを感じながら、あたしはぼーさんを見て笑う。
そしてぼーさんも微笑む。
「これからよろしくな、可愛い恋人さん」
「うん……!」
ー『忘れられた子供たち』完ー