第9章 忘れられた子どもたち
『気持ちを伝えるなら、早めの方がいいよ。後悔する前に』
後悔する前に。
あたしはその言葉に眉を下げながら、シートベルトを外そうとした手を止めた。
「結衣?」
ぼーさんに想いを伝える、後悔する前に。
あたしはそう思いながら恐る恐ると彼を見れば、ぼーさんは不思議そうにしながらあたしを見ていた。
(今、チャンスを逃したら……きっと、あたしはずっとぼーさんに想いを伝えられないかも)
彼と会う時は誰かといる時が多い。
なかなか二人っきりというのはなれないし、今チャンスを逃したらあたしはきっと想いを伝えることが出来ない気がした。
なら、後悔する前に砕け散ってもいいから……告白するべきなんだろう。
「ぼーさん……」
「ん?」
「あたしね……ぼーさんが好き……です」
小さな声だった。
緊張と恥ずかしで声は震えていて、ちゃんと伝わっているのか怖くてもう一度言うことにした。
「初めて会った時から、ぼーさんの事が好きです……」
初めて会った時に一目惚れして、そして最初は嫌な性格だと思って軽蔑もした。
だけど知れば知るほどに、関わるほどに好きになっていった。
この気持ちは誰にも負けることは無いと思う。
「好き……です」
震える声で最後に言う。
そして車内は沈黙が流れ、あたしは恐る恐るとぼーさんを見る。
彼は驚いたように目を見開かさて固まっていた。
沈黙が長い。
ぼーさんは固まったまま動かないし、あたしも何も言えなくなってしまう、
(に、逃げよう……!!)
沈黙のせいと恥ずかしさでそう思ってしまった。
「やっぱ忘れて!!忘れてもいいから!!無かったことにしてもいいから!じゃ、じゃあ送ってくれてありがとう!!」
シートベルトを外して車の扉を開けようとした時だった。
「待った!!」
声が飛んできて、腕を掴まれてしまう。
驚いて振り返れば、ぼーさんは真剣な表情であたしを見ていた。
「逃げるな」
「……あ……うっ」
「ちゃんと、おれの返事を聞け。言い逃げはナシだ。おれは無かったことや忘れることもしない」
真剣な瞳で見つめられ、あたしは目を思わず逸らす。
「あの……フるなら潔くフってくれたら」
「誰がフるかよ。好きな女から告白されたのに」