第8章 呪いの家
「冷静だったら、あんな挑発に乗るような人ではないし、そもそも度を失う人でもありません。よほど自分の失態が腹に据えかねたのでしょう。彼のプライドは途方もなく高いですから。──暫くは機嫌が悪いでしょうが」
「……そうかな」
「失態に逆上して抜いてはいけない剣を抜いた……いわば二重の失態ですからね。これで除霊にも失敗していたら憤死しかねないとそろですが」
リンさんの言葉に麻衣が笑う。
「……そだね。──ちゃんと治る?」
「もちろんです」
リンさんはちょっとだけ微笑んだ。
「やれやれだね。ナルったらホント、今回は人騒がせだよ」
あたしがそう呟くとリンさんと麻衣は『そうだ』と言わんばかりに微笑んだ。
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騒動が終わり、吉見家に戻るとお店はあちこち壊れていた。
彰文さんたちは『どうせとうぶんは営業できないし、宿として使ってください』と言い、有難くそうさせてもらった。
ナルと安原さんは入院。
安原さんは肋骨が折れていたらしいので、どうせ帰ることは出来なかった。
それからお葬式があった。
和泰さんは自殺、奈央さんは事故となっていた。
(皆、いい人なのに……なんでこんなことになっちゃったのかな)
そして騒動から数日。
あたしたちはナルが入院している病院へと来ていた。
「──いっやー。思ったより早く退院できてよかったなあ、少年」
「その説はどうも。次は渋谷さんの番ですねぇ」
リンさんの言う通り、ナルは見事に不機嫌だった。
今も不機嫌そうにファイルを持って、ペンを持ってベッドの上で仕事をしている。
「あたし何か飲み物買ってくるね。お茶でいい?」
「手伝いますわ」
「あたしも行こうか?」
「真砂子と二人でいーよ。結衣もお茶でいいよね?」
「うん」
あたしは病室から麻衣と真砂子を送り出した。
「ぼーさん、怪我平気?」
「もう平気だよ。治ってるし」
ぼーさんは相変わらずの優しい笑顔で微笑む。
その笑顔にほっとしながら、あたしは不機嫌そうなナルを見る。
実はぼーさんか聞いたが、彼は目を覚まして一番にぼーさんたちに謝罪したらしい。
驚きである。
「やれやれ……」
「あんま溜息ばっかり吐き出してると幸せが逃げんぞー」