第8章 呪いの家
ナルは無言で祠を見ている。
あたしたちの声が聞こえていないような雰囲気だ。
「ナル?」
またお得意の無視だろうか。
なんて思っていれば、彼は祠の方へと歩み寄り始めた。
「ちょっ……ナル!?どうする気?」
麻衣の声でリンさんが振り返る。
「ナル!?やめなさい!」
「おわっ!?」
リンさんは咄嗟にナルに近づこうとしたが、ぼーさんが転けてしまいそうになる。
そして慌ててその場に留まった。
止めなければいけないのかもしれない。
そう思ってあたしはナルの元へと駆け寄る。
「ナル!何しようとしてるの!?」
「ねえってば、ナル!」
ナルは呼び掛けに反応しない。
ただ祠の方を見ているのだが、何故か彼の髪の毛が揺れた。
緩い風のようなものが髪の毛を撫でていく。
(風……?なんで風なんかが……)
そう思ったところで耳鳴りがした。
耳が痛くなるようなそんな耳鳴りに思わず顔を顰めていれば、麻衣がナルへと手を伸ばしていた。
だが何かに阻まれるように麻衣の手が跳ねる。
どうしたのだろうか。
そう思ってあたしもナルへと手を伸ばしたのだが、強い静電気のようなものが手を阻んだ。
「いっ……!?」
ナルからねっとりとした空気が漂う。
まるで体の周りに膜があるような感じと同時に、耳鳴りが酷くて音がよく聞こえない。
周りの景色も歪んでいるのだが、これはナルがしていることなのだろうか。
耳鳴りが強くなる。
そしてナルが拳を作りそのまま降ろした。
拳の先で空気が砕けたような気がした。
(あ……)
腕を振り下ろした方向へ亀裂が広がっていく。
空気が裂けて、歪んだごと祠が砕け強い風があたし達を吹き飛ばそうとした。
目を恐る恐ると開き、祠を見て目を見開かせた。
流木が完全に壊されていたのである。
「……なにが……」
「気配が……気配が消えました。ここはもう霊場ではありません。吹き寄せられる霊も、もういない。ここはたんなる洞窟にすぎません」
入口は普通に開いていて、海が見えた。
「……今、ぼーさんは除霊できるんなら最初からやってほしかったなーという気持ちでいっぱいです」
ぼーさんの言葉にナルは何も言わない。
そしてあたしたちに視線を向けて一言言い放った。
「戻るぞ」