第8章 呪いの家
「へえ」
結衣は雄瘤と雌瘤を見る。
彼女はあの二つの岩が引き離されないように、まるでずっと一緒にいられるようにとされているような気がした。
「土地の伝説なんですけどね。ずっと昔、この土地にナントカという姫君がいて──姫君には土地に住んでいる漁師の恋人がいたんですけど、そこに横恋慕する男が現れるんです。男は近くの貴族の息子で、姫を無理矢理お嫁さんにしようとするんですが、それを嫌がった姫は恋人と駆け落ちしようとするんです。ところがその手はずを書いた手紙を貴族の息子にすり替えられてしまって、二人は出会えないんですよ」
ふと、結衣は彰文の話を聞いて何処かで聞き覚えのあるような話だなと首を傾げる。
「姫が間違いに気付いて慌てて恋人を捜すと、恋人のほうは貴族の息子を殺してしまっていた。姫じゃなくて貴族の息子が来たので裏切られたと思ったんです。二人は誤解を解くことができたけど、もう遅い。それでこの岬から海に飛び込んでしまうんです」
麻衣が見た夢だ。
結衣は直ぐに気が付いてから、彼女は麻衣を見る。
麻衣は顔を真っ赤にさせていて、茹で蛸のようになっていて噴火してしまいそうだ。
呆れとショックやらなんやら。
結衣は額に手を当てながら深く息を吐き出した。
(つまり、麻衣が姫君でナルが漁師の恋人。彰文さんが横恋慕する貴族の息子って感じで夢を見たわけか……なんちゅー夢を見てんのさ、麻衣は!)
やれやれと深い溜息をつく。
麻衣は相変わらず顔を真っ赤にさせていて、結衣はそんな妹になんとも言えずにいた。
「それを哀れに思った神様が、二度と引き裂かれることのないように恋人を雄瘤に姫を雌瘤に変えたっていう話です」
我が妹ながら図々しいというか恥ずかしい夢を見たものだ。
結衣はそう思いながらも、何故麻衣はそんな夢を見たのだろうと首を傾げる。
(麻衣がその夢を見たってことは実話なのかな……?)
そうなのかもしれない。
でなければ、麻衣がそんな夢を見るはずがないと思っていた時法生が声を上げる。
「お?あんなとこに建物が」
「あれが神社です。神主さんもいないような小さな神社ですけどね。行ってみますか?」