第8章 呪いの家
そう言って、彰文さんは人差し指と親指をくっ付けてOKマークを作った。
「OKマーク?」
「そうです。出来た輪がこの入江なんです。親指と人差し指の合わせ目が入江の入口です。あっちに見えている断崖の切れ目ですね」
「なるほど」
「人差し指に当たる部分にあるのが店の敷地です。──実在は指よりうんと広いですが位置関係は人差し指。親指が今、向かいに見えている対岸ですね。入江に沿ってぐるりとあちら側まで庭で、向こうには茶室なんかがあります」
「ほうほう」
「手首の当たりを横切っているのが県道です。この県道が中指の方向へ続いているんですが、道に沿った防波堤の向こう──中指のあたりが浜になっているんです。ここでなら泳げますよ」
OKマークを作った指で彰文さんに言われた場所を記憶する。
「そして人差し指の爪の位置に小さな洞窟があります」
「洞窟?」
「洞窟があるんですか?」
「ええ。海蝕洞というやつでしょうか。昔、波が崖を抉って出来たんじゃないかな。今はもう水はありませんけど、ちょうど人差し指の爪のあたりからこの入江へと抜けているんです」
「へー!そこ見られたりしますか?」
あたしは洞窟にとても興味があった。
海の近くの洞窟なんてワクワクすると思っていると、彰文さんがニッコリと微笑んだ。
「よろしければ明日ご案内しますよ」
「「やったー!」」
双子で揃って喜べば彰文さんはなんだが、微笑ましいものを見ているという感じの笑みを浮かべていた。
そんな時、ぼーさんが断崖絶壁の入江を見ながら声をかけてきた。
「しかし、吉見さんや。こんなヘンピなところで料亭なんて商売になんのかい?」
「はあ……ここは普通の料亭さんとは少し違うので……。会員制の料亭と言ったらわかるでしょうか」
会員制ということは、格式が高そう。
なんて思っていると綾子が声を上げた。
「あっらー♡良かったじゃない、三人とも。仕事でもなかったらあんた達一生こんな所来れないわよー」
その言葉にカチンと来る。
「そーゆー綾子様はどーなのさ」
「アタシには玉の輿というチャンスが残されてるもの♡」
「その性格じゃ乗れる輿じゃタカが知れてらい」
「子供には分からない魅力ってもんがあるのよ」
「ふう〜ん。でも急いだほうがいいよ」
「もうすぐ三十手前でしょ?」