第5章 サイレント・クリスマス
ーthird person singularー
──ぼく、ここにいるよ
ねえ はやく
はやく ぼくを見つけてよ……──
冬真っ盛りの時期。
結衣は双子の妹・麻衣と、法生とジョン、そしてバイト先の上司であるナルと同僚のリンと共にある教会に来ていた。
「うわあ!本物の教会だあ」
「教会来るの初めてだあ!」
車から降りた双子は、初めての教会にはしゃぎながら走り出していた。
「結衣、麻衣ー。走ると転ぶぞー」
そんな忠告を聞かず、テンションがまるで幼い子供のように上がっている双子はかけていく。
法生はそんな二人を苦笑しながらも、優しい目で見守っていた。
「すごーい、すごーい!かわいいねー!」
「きれー!可愛いー!」
「えっ、おれが?」
「アホか!」
「なんでぼーさんがかわいーんじゃ!」
「教会だよ、教会!」
惚けた事を言う法生に、双子が蹴りを入れる。
「ちょっと、ジョン見た!?双子揃ってケリよ、ケリ!なんかいってやってよお!」
ジョンは苦笑を浮かべながら、何と言うべきなのだろうかと悩んでいる様子だった。
一方双子はそんな法生をほうておいて、教会を見ながら笑みを浮かべている。
「クリスマに教会!いいねえ、やっぱこーでなくちゃ」
「うん、うん!いいよねぇ、やっぱり!」
クリスマの日に教会。
なんて良い日なのだろうと頷き合う双子に、鋭い声が飛んできてしまった。
「麻衣、結衣。遊びにきたなら帰れ」
「仕事です!」
「わかってます、所長(ボス)!」
慌てて二人は敬礼をして、仕事なんだと気を引き絞める。
そう、今回は遊びに来たのではなく全員仕事で教会を訪れていのだった。
だが……と双子は苦笑いを浮かべる。
清廉な教会の場に、黒ずくめ二人の男がいるとはなんとも似合わないと。
「……ねえ、同じ教会にくるのでもさ。ナルとリンさんてテイストがちがうよね……」
「似合わないなあ……あの二人に教会だなんて」
こうまで似合わない人はいるだろうか。
結衣は頬をかきながらも、もう一度教会を見上げた。
その時、とある男性の声が聞こえてきた。
「ブラウンくん!」
声がする方に視線を向ければ、中年の男性が柔らかい微笑み浮かべて立っている。