第4章 放課後の呪者
ナルが、あのナルがリンさんに叱られている。
これは珍しすぎる現象であり、あたしたちは静かにそれを苦笑しながら見守っていた。
「……霊現象よりめずらしー現象だな、オイ」
「おもしろいけどね……へへ」
「あ、ビデオとっときゃよかった……」
麻衣の言う通り、この瞬間をビデオで撮っておけば良かったと後悔してしまう。
「それにしても、ナルにそんなかくし芸があったとは。ぜひ、拝見したいなー」
「あ、アタシも!」
ぼーさんと綾子が次々に言うと、ナルはまたあたし達双子を睨んできた。
「……麻衣、結衣。覚えてろよ」
そんなもの知るか、と二人揃ってあっかんべーとする。
するとナルは『仕方ない』と言いたげに、机に置かれていたティーカップに添えてあるスプーンを手に取った。
「ナル!」
「こうなったら仕方ないだろう?いいか?」
薄い笑みを浮かべたナルは、あたし達の目の前で意図も簡単にスプーンを曲げて見せた。
そして『ほら』と綾子にそれを投げる。
「……すごいじゃない」
やっぱりナルは凄い。
なんて関心しながら、綾子の手にある曲げられたスプーンを見つめるとぼーさんが割って入った。
「おい。おいおいおい、ナルちゃんよ〜」
「なにか?」
「なにか?じゃねーだろ!」
「えっ、なになに?」
「どーしたの?」
「あーもう。カンタンに騙されちゃって、この子たちはっ!いまのはナルが指の力で曲げたの!横から見たらバレバレじゃ!」
「えー、だって」
「曲げたよー?」
あたしと麻衣は首を傾げる。
するとぼーさんはあたしの額を指で弾き、スプーンを手に取った。
「いーか?こう!ここんとこで柄をささえて」
ぼーさんはスプーンの柄を支えた。
それがどうしたのだろう……と思っていれば、ジョンが同じようにしてスプーンを曲げたのである。
「あ、ほんとです」
「だろ?」
「……サギじゃん!?」
あたしが思わず叫ぶと、ナルは鼻で笑った。
「サギの被害にあわない一番の方法はサギの手際を知り尽くすことだ」
なんとも腹が立つ。
「……こっ、こんな奴が超心理学者でいいのか……?」
「ただの手品じゃんよ……」
あの時驚いて損してしまった。
なんて思いながらため息を吐き出した。