第4章 放課後の呪者
思いがけない言葉に、麻衣はトレーを落として結衣はあんぐりと口を開ける。
そして双子は同時に叫んだ。
「「えええええーっ!!?」」
「イベントでさー、急に駆り出されたんだけどこれがもーへったくそなアイドルちゃんで」
「バ、バックバンドって……!あっ、木魚とか尺八とかでしょ?」
「それか三味線か琴!」
「おっ、いーね、ソレ!ってバカ。これをごらん、ベースです。わたくしはベーシストです」
無表情になった法生は双子にベースケースを見せた。
「うそっ!中に三味線とか入ってんじゃないの?」
「それか琴!!」
「──あのな、言ったことない気がするんで今言うけど。おれの本業はスタジオ・ミュージシャンてヤツなの!いちおーバンドも持ってるけどボーカルがいまイチくんでなー」
法生の言葉にまた双子は驚愕した。
普通ならば本業が坊主であり、バイトがスタジオ・ミュージシャンならば分かる。
だが法生は本業がスタジオ・ミュージシャンと言ったのである。
そんな事あるのか。
結衣は混乱しながらも、まさかの事実に内心『カッコイイ』と思ってしまっていた。
(これが惚れたゆえの感情……?)
結衣は自分の胸元を抑える。
奇抜な格好をしているが、それが法生がしていると思えば全てがかっこよく思えてしまったのだ。
「そ、そんじゃ坊主がバイト?え?高野山にいたってゆーのは?」
「いたよ。おれんち寺だから。親父は坊主にしたがったんだけどさ、お山はCDとかも持ち込み禁止だったからそんで下りたのさー」
「そ、そんな理由で下りたんだ……」
「下りるのには十分な理由だぜー、結衣ちゃんや」
「え、でもなんでお坊さん続けてるの?」
「この業界には意外に多いんだよ。タタリだのなんだの。なんかあるたび、もと坊主ってんで担ぎ出されるんで拝み屋が副業みたくなってんの。ナットク?」
「ナットク……」
「うん……」
結衣は驚きながらも、少しだけ喜んでいた。
法生の知らなかったことをまた一つだけ知れたことを。
そして頬を少しだけ赤く染めながらも、法生に小さな声で言葉をかけた。
「でも、カッコイーね……ぼーさん」
「お、まじ?嬉しいこといってくれんじゃん、結衣。ありがとなー」