第4章 放課後の呪者
ー東京・渋谷ー
「……んー……」
「……うーん……」
この日、双子たちは悩んだような声を出していた。
事務所は相変わらず静かであり平穏であり、応接室には結衣と麻衣しかいない。
普段からそうである。
応接室にナルとリンは出てこないので、基本的に彼女たちしかいない。
だがたまにだけ、所長室に篭っているナルは休憩する為に応接室に出てくるのだ。
「あ、ナル」
双子が唸っていれば、所長室から相変わらず無表情なナルが本を手にしながら出てきて無言でソファに深く腰掛ける。
「ナル、ひと休みするの?お茶いれようか」
「ああ」
「じゃあ、今日はあたしが淹れるねえ」
結衣はひらりと手を振りながら給湯室へと向かう。
そこでナルに文句を言われながら覚えた紅茶を淹れて、それを覗きに来た麻衣に手渡す。
麻衣はカップをトレーに置き、ナルへと運ぶ。
それを見た結衣は自分達の分も淹れ始めた。
「あ、そだ?ねえ、ナル。ちょっと気になることがあるんだけど」
「それが?」
麻衣が聞こうとして、ナルは素っ気なく応える。
普通ならば『どんな?』や『どうした?』と聞き返すところだが、この御仁はそうはいかない。
結衣は二人の会話を聞いて顔を引き攣らせながら苦笑を浮かべた。
「『それが?』って……ふつう『どんな?』とかいわない?」
「あいにく、仕事以外の話をきくムダな時間は持ち合わせてないもので」
相変わらずの仕事馬鹿っぷりに双子は苛立ちを覚える。
だがこんなのを双子の妹は好きだと知っている結衣は、呆れに近い溜息を吐き出した。
(趣味が悪いなあ、我が妹ながら……)
給湯室から顔を覗かせて見れば、麻衣は怒りを落ち着かせようと息を吐き出しているのが見えた。
それを見ながら結衣は麻衣が暴走しないように……と、てきぱきと紅茶を淹れ終えてから机に二つのカップを置く。
「……そのっ、ナルのだーい好き♡なお仕事の話なんですけどっ。きのう女子高生が依頼にきた狐憑きの話覚えてる?」
「麻衣よりは明確に覚えてると思うが。あと結衣よりも」
「なんでそこであたしの名前が出るかな!?というか、そりゃそーでしょうね!」
「『ウチじゃなくて病院にいけ』って断ったのナルだもんねっ!」