第2章 人形の家
「その子たちは富子さんではありません。どうぞ、もう自由にしてあげて!みんな、ほんとうのお母さんのもとに帰りたいのですわ。おねが……」
真砂子が言葉を途切らせる。
女の下、井戸から無数の小さな子どもたちの手が出てきた。
その手は床を這いながら、徐々に結衣達の元へと向かっている。
「手……がッ……!」
結衣が悲鳴のように呟けば、手は彼女達の元に襲いかかろうとした。
「いやーっ!」
悲鳴をあげると、ジョンが庇うように彼女たちの目の前に立つ。
だが女の力なのか、ジョンは壁へと吹き飛ばされてしまった。
「ジョン!」
「あっ……」
女の目が見えた。
何もかも恨んでいるかのような、そんな瞳に背筋が震える。
そして女はゆっくりとその瞳をナルへと向けた。
ナルは女と目を合わせる。
そしてゆっくりとその足を女の元へと向けた。
「……ナル!やめてください!すこしまって!」
「ナル!」
「まって、ナル!」
三人が呼ぶが、ナルはそれらを全て無視して女の元に向かった。
そして軽く左手をあげる。
「……おまえの子どもはここにいる」
ナルの手には、人の形をした木の板が握られていた。
木の板には紙が張られていて、何かが書かれている。
「集めた子どもともども、つれていくがいい──」
ナルが木の板を投げると、女はそれへと視線を向ける。
板は徐々に光を帯びていき、その光は小さな子供になっていく。
その子供に双子たちは見覚えがあった。
「富子ちゃん……」
その姿は、女の子どもである富子だった。
女はその姿を見ると、何かを叫んでから富子へと手を伸ばす。
そして女は富子を抱きしめた。
「……あ」
暖かく眩い光が居間に広がる。
優しくて、泣き出してしまいそうな光だ。
「……結衣、麻衣。見て」
富子と女の周りに、柔らかな笑みを浮かべた子どもたちの霊が集まっていた。
そして女と富子、子どもたちの霊は徐々に光とともに消えていく。
「……消えましたわ。浄化した……!」
居間にはもう、背筋が凍るような気配もない。
そして冷たい空気もなにもなく、普通の空気が漂う居間となっていた。
朝日が差し込む。
いつの間にか朝を迎えていた。
浄霊を終えたと知った法生と綾子、そしてベースにいたリンが居間に来た。