第11章 ハリーの空中戦
朝早く、チユの部屋の扉がノックされた。
ハーマイオニーの声だ。
寝ぼけ眼で、チユはぼーっと彼女の声を遠くで聞いていた。
「ちょっと!入るわよ!」
その言葉に、チユは慌てて飛び起きた。普段、制服を脱ぎ捨てた後、そのままパジャマも着ずにベッドに潜り込む癖があるからだ。
羽を見られたらまずい!と思い、チユは慌てて布団に丸まりながら応対した。
「ほら、起きて!今日はハリーの大事なデビュー戦なのよ!」
「わ、わかってるよ!すぐ行くから、先に行ってて!」
そう言って、チユはハーマイオニーを追い出した。
大広間に辿り着くと、すでにハリーとロンが席についていた。辺りは、こんがり焼けたソーセージのおいしそうな匂いと、クィディッチの好試合を期待するウキウキしたざわめきで満たされていた。
「朝食、しっかり食べないと」
「何も食べたくないよ」
「トーストをちょっとだけでも」ハーマイオニーがやさしく言った。
「お腹すいてないんだよ」
そう言って何も口にしようとしない、ハリー。
緊張で寝付けなかったのだろうか、顔色は悪く、薄らとクマが浮かんでいる。その姿を見て、チユはホグワーツに来たばかりの自分の姿と重ね合わせていた。
チユは、少しでもハリーが食べることを願って、ソーセージをフォークで刺し、彼に差し出した。
「僕、もう子供じゃないんだから、自分で食べられるよ」ハリーが苦笑を浮かべながら言った。
けれど、食事に手をつけようとはしなかった。
「でも、全然食べてないじゃない。少しでも力をつけないと…」チユは、心配そうにソーセージをハリーの方へ向け続ける。
その姿は、傍から見れば不思議に映っただろう。けれど、チユの思いはひたすら真剣だ。
「これは驚いた!姫様のあーんを拒否できる男がこの世にいるとはなぁ、相棒?」
「俺なら泣いて喜ぶのに!どうやらハリーは男じゃなかったようだぜ、フレッド!」
突然、双子がケラケラと笑いながら近づいてきた。
彼らの“男じゃない”という言葉に引っかかったのか、ハリーはチユが差し出したソーセージを一口かじった。その動きに、まるで少しずつ心が動き出したかのような兆しが見える。
その後、ハリーはトーストをちぎり始めた。量は少ないが、それでも少しは食べる気になったようで、チユはほっと胸を撫で下ろした。