第10章 【後輩】
「やめて...先輩...ッ」
はぁ...と、そいつは吐息を漏らす。
俺の前で、部室の床に手をついて。涙を流す。
あどけない、幼い子供のような面影を残す、純朴な顔をした少年だ。
「お願い...」
あまりの苦痛に、誇りも尊厳も失われ、ただ力なく俺に懇願するしかなくなっている。
甘い甘い響きだった。理性がバットで殴られ、ぐにゃりと消えて無くなる。
「やめねぇ...あんた...俺に何したんだよ...」
誤解はしないで頂きたい。
俺は...俺こと柊智史はーー..."聖人"だったはずだ。
人が人を虐げる。あってはならない事だ。
分かっていた。
そんな事は誰より分かっていたはず...だ...。